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東京地方裁判所八王子支部 昭和41年(わ)530号 判決 1967年3月29日

被告人 鈴木藤夫 外三名

主文

被告人鈴木藤夫を懲役一年六月に、

同 斉藤穰を懲役一年に、

同 原島信夫を懲役一〇月に、

同 岡部ヒサ子を懲役一〇月に、

各処する。

被告人鈴木藤夫及び同斉藤穰に対し未決勾留日数中各一五〇日を右各本別に算入する。

但し被告人原島信夫及び同岡部ヒサ子に対し本裁判確定の日から各四年間右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用中証人古川莞爾、同松本衛武、同福岡真也に支給した分の中四分の一は被告人原島信夫の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人鈴木藤夫は住吉会稲葉組の組員をしていたことがあり、被告人斉藤穰及び同原島信夫は、被告人鈴木藤夫の止宿するアパートに寄宿する等同被告人の世話になつていた者、被告人岡部ヒサ子は、被告人鈴木藤夫と情交関係のあつた老であるが、被告人岡部ヒサ子がホステスとして働いていた喫茶店に来る顧客の一人である印刷会社の社長をしている古川莞爾と懇ろの仲となり、同人から自分の止宿するアパートの引越し費用として十万円位貨して貰えることになつていたところ、同人が容易にこれを実行する様子が見えなくなつたため、これを何とかして鈴木藤夫をして借りられるよう話をつけて貰いたいと考え、これを同人に打ち開けたところから、被告人四名共謀の上、右古川莞爾を脅迫して相当多額の金員を喝取しようと企てるに至り、昭和四一年六月二九日午後八時頃、東京都立川市柴崎町三丁目二番地三〇喫茶店「琴」の店舗内において、被告人鈴木藤夫が主として発言し、被告人斉藤穰及び同原島信夫は話の合間に相槌を打つたり等して、古川莞爾(当四三才)に対し、同人が被告人岡部ヒサ子と肉体関係を結んだことに因縁をつけ、「俺が刑務所に入つている間、お前は俺の内妻を随分ひどいことをしているじやあないか」等と先づ事実に反することを申し向け、「女の話だと酒を飲まされて無理にやられたのだと云つている、出るところへ出て話をつけようじやあないか」「お宅の奥さんのところに行つて話をつけようじやあないか」「金で解決した方が良い」「二百万円出せ」等と申し向けて、多額の金員の交付方を迫り、若しこれに応じないときは、暴力団の組織の威力をもつて、同人の身体、財産及び名誉等に対しいかなる危害を加えるか分らない気勢を示して同人を畏怖せしめ、よつて翌六月三〇日午後八時一五分頃、前記喫茶店内において、同人をして現金五万円を交付せしめてこれを喝取し

第二、被告人斉藤穰は、昭和四一年一二月一〇日午後一時頃、東京都八王子市明神町一二ノ一、八王子拘置所五階雑居第一室において、在監人の藤野洋(当二一才)に対し、前から、被告人鈴木藤夫の知合の者を右藤野の身柄引取人になるよう世話をしようとしたが、同人がこれを余り喜ばぬ様子を示していたのに内心心良く思つていなかつたところから、些細なことで同人の態度が気に喰わぬと憤慨し、矢庭に、手拳同人の顔面を一回殴打し、更に同所を右膝で一回蹴り上げる等の暴行をなし、よつて同人をして全治まで約七日間を要する右眼窩部打撲症の傷害を負わしめ

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(判示第一摘示の恐喝既遂の事実に対し弁護人が仮りに有罪であるとしても恐喝既遂の成立はなく同未遂に止まるものである旨の主張につき)

検察官もその論告において認めているとおり、被害者古川莞爾が弁護士に相談し、被告人等と第一回に会合した際においても、弁護士の事務員が現場に張り込み、右古川においても後日の証拠とするためにテープレコーダーを密かに携帯し、被告人等の発言を録音した外、第二回の会合においては、所轄警察に届出で、可成小切手を交付するようにし、止むを得ない場合には現金を交付すべしとの指導を受け、警察官や弁護士が現場に張り込んで適当なときに被告人等を逮捕する手筈をきめ、そのとおり事態が進行して、右古川が交付した現金五万円を被告人鈴木藤夫が直接ポケツトに納めるや、間もなく被告人鈴木、同斉藤、同原島が現場において恐喝既遂の現行犯人として警察官に逮捕されたことは証拠上明らかである。そこで弁護人は本件は全く被告人等を逮捕せんとする方法として現金を交付したもので、完全なおとり行為に外ならず、被害者のこの現金交付は毫も畏怖の念に基いたものではなかつたのであるから、恐喝未遂の成立することはともかく、検察官主張の如く恐喝既遂の成立はないものである旨主張している。しかし乍ら、被告人等で少くとも現場にいた者の数は三名であり、尚第二回の会合においては起訴外の二名をこれに加えるならば被告人側は五名であり、更に被告人等は現場において仲間が尚外部にも居るように見せかけて居り、これ等被告人等の言動、態度、気勢に徴して、被害者たる右古川が受けた畏怖の念は、明らかに暴力団の組織の威力の前に立たされた結果のものであつて、たとえ警察の張り込み等があつても、被告人等の仲間で外部に尚居る者が如何なる行動に出で、家庭を破壊し、財産を損ぜしめ、或は身体まで危害を加えられるか知れないものと恐れ、それを防ぐためには少くとも被告人等を現場において警察に逮捕して貰わねばならぬが、そのためには警察の指導に従い現金五万円を一応被告人等に交付するも止むを得ないとの恐怖に基く不本意性を有していたものと解され、現に右古川も大体この趣旨の証言をしている。要は被害者の立場からすれば、現場にいた被告人等だけを怖れたのではなく、現場の内外を通ずる暴力団の特色たる組織的暴力に恐れをなし、よつて止むなく警察の指導するまま現金の交付をせざるを得なかつたものと判断されるのである、然らば、本件が恐喝既遂となることは当然である。

(法令の適用)

判示第一

刑法第二四九条第一項、第六〇条

判示第二

刑法第二〇四条、罰金等臨時措置法第二条、第三条(懲役刑選択)

累犯加重

被告人鈴木藤夫のみ

同被告人は、

一、昭和三六年五月一一日東京地方裁判所八王子支部言渡、恐喝、同未遂、暴行、懲役一年(未決通算三〇日)同年同月一六日確定

二、昭和三七年九月一五日同支部言渡、傷害、懲役一〇月(未決通算三四日)、同年同月一九日確定

三、昭和四〇年七月二六日同支部言渡、監禁、恐喝未遂(未決通算一六五日)、同年八月一〇日確定

その頃いづれも刑の執行終了

被告人鈴木藤夫に対する前科調書により明らかである。

刑法第五六条第一項、第五九条、第五七条

併合罪加重

被告人斉藤穰のみ

刑法第四五条前段、第四七条本文、第一〇条(重い恐喝罪の刑に法定加重)

未決通算

被告人鈴木、同斉藤の両名のみ

刑法第二一条

刑の執行猶予

被告人原島、同岡部の両名のみ

刑法第二五条第一項

訴訟費用負担

被告人原島のみ

刑事訴訟法第一八一条第一項本文

訴訟費用負担免除

被告人鈴木、同斉藤、同岡部

刑事訴訟法第一八一条第一項但書

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 田上輝彦)

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